八 熊さんよう、このあいだの本の続きなんだけど、
熊 「人新世の資本論」の話だな。ざっくり言うと、マルクス兄いの「資本論」は、ソ連や中国のように生産手段を国有化するというイメージが強いが、それは正しい資本論の解釈ではない、資本論に書いてない新資料から見られる、マルクスが年寄ってから考えたことを含めた新解釈が今の温暖化した地球の危機を救うってことだな
八 それって資本論なん?
熊 おれもよくわからん、ただ、マルクス兄いは資本論を完成させる前に死んじゃったし、コモンが考え方の基本だということは確かだ
八 何それ?
熊 共同で管理された富という意味だ。前に囲い込みの話はしたな
八 今回の熱海の土砂災害も、囲い込みの悲劇だね。金もうけのために、山という誰のものでもなかったものを囲い込んで、要らなくなった遠い所の土や産業廃棄物を捨てて、自然を改造することで、儲けとは関係ない多くの人が悲惨な目に遭ったよね
熊 まさに資本主義の縮図だ。しかもきっかけになった異常気象を生む地球温暖化こそが、資本主義の産物なんだ。そこで、脱成長コミュニズムだ
八 何それ?
熊 マルクス兄いは若い頃、生産力が上がると貧困問題は解決できると考えていた。でもそういう進歩史観を年寄ってからは捨てた。長く滅ばなかった古代ゲルマン民族が、共同で土地を持ち、土地や木や豚や酒を外の世界に売ることを禁じ、耕作地もくじ引きで時々交代していたことに目をつけたんだ
八 くじで交代なら、地主が良い土地を独り占めすることもないし、無茶苦茶に使うこともないよね
熊 そう、持続可能性と社会的平等が深くつながっているんじゃないかと考えたんだ
八 でも、外の世界と取引しないと儲からないんじゃないの
熊 それは資本主義の考え。脱成長コミュニズムってのは、同じような生産をしきたりどおりに繰り返す、つまり成長しない世の中なんだ
八 貧乏臭くないの?
熊 ものには価値と使用価値があるんだ。例えば土地の価格はさまざまだ。しかし安いからといって住むという「使用価値」が下がるわけではない。土地、水、空気、資本主義が始まるまでは余るほどにあったんだ。資本主義が囲い込むことで貧しさを生んだんだ
八 昔に戻るってこと?
熊 ちょっと違うんだな。近代社会の成果を大切にしながらコミュニズムに変わるってことだ
八 よくわからん
熊 民営化ではなく市民営化と斎藤さんは言っている。住居、医療、電気、教育を自分たちで管理するんだ。
八 例えばどうやって?
熊 エネルギーで話をすると、 斉藤さんは、風力発電や太陽光発電を推してるね。自然エネルギーはみんなのものだからね
八 最近は屋根に付けた長屋があるね。おれんちもつけたいね
熊 お前の家は陽が当たらんだろ
八 家の前に十階長屋が建ったからなあ
熊 そこでコモンの登場だ。共同管理という手がある。斎藤さんが勧めているのはこれ
八 実際にあるの?
熊 福島原発事故から後、市民が市議会に働きかけ、資金を集めて休耕地に太陽光パネルを置いてエネルギーの地産地消を目指す所が出てきた
八 そういや、ため池にパネルを浮かべている地区があるよ。池は地区の物だからコモンなんだ
熊 そう、さらに生産手段もコモンにする必要がある。ワーカーズ・コープというんだ。労働者が、地域の長期的な反映を考えて、どのように働くか決めるんだ。スペインのモンドラゴン協同組合は60年以上の歴史を持っている
八 コープさんなら知ってる。ほかもある?
熊 デトロイトは、世界の自動車生産の中心地だったけれど、アメリカ車の衰退で市が破産した。まさに資本主義の夢の跡だ。でも地価が下がったので都市農業を住民が始めたんだ。栽培、販売を通じて住民の絆が復活したって
八 世界中にあるんだ
熊 コペンハーゲンでは誰が収穫してもよい農園があるらしい
八 あ、それ、神戸にあるってテレビでしてた。でもみんな遠慮してるって
熊 ただでもらうのは悪いから、自分も役に立つことをしようって気持ちが豊かな労働を作るんだ
八 そんな社会が広がればいいね
熊 じゃあ、まとめだ
八 待ってました
熊 その1、使用価値に重きを置く
八 何が必要かってことだね
熊 化粧品の箱や容器代は、価値をあげるために中身を作る三倍のコストがかかっている
八 箱はきれいけれど、ゴミになって環境に負荷をかけるね。中身の使用価値が反映されているかよくわかんないけど、諦め切れないで努力している女房の姿はかわいいよ
熊 その2、労働時間を短縮して生活の質を上げる
八 大賛成
熊 お前はもうちょっと働け。でもコンビニ、ファミレスが24時間開ける必要はない
八 栄養補給は使用価値だけど、いつでも、は価値
熊 結局はゴミになる無駄なものを大量に作ることをやめれば、夜中に工場を動かすこともなく、労働時間は減る
八 環境にも良いね
熊 その3、画一的な分業を廃止し、労働の創造性を回復する
八 働く時間が減っても、楽しくないとね
熊 その4、生産過程を民主化し、経済を減速させる
八 働く者が働き方を決めるんだ
熊 特許も廃止だ。独占しない
八 やる気起こらないのじゃない?
熊 それでいい。競争をやめると、不必要な加速はなくなる。学問は囲い込みから開放され、情報が共有され、むしろ発展するかも知れない
八 山中教授もIPS細胞の特許をとらなかったから、世界中で研究が進んでいるね
熊 その5、エッセンシャルワークを重視する
八 人が生きるのに無くてはならない仕事なのに、きつい割に給料が低いのも変だよね
熊 広告は商品の価値を上げる手っ取り早い方法で、広告代理店って花形で給料高いけど、別に広告はなくても困らない
八 でも、エッセンシャルワーカーの人って、いなくちゃ、みんな生活できないよね。あべこべだね
熊 ということで、五つの柱で、脱成長して二酸化炭素を減らし、気候変動対策をしようというものなんだ。最後にバルセロナの人たちの試みを紹介してこの本は終わっている
八 バルセロナはサッカーだけじゃなかったんだ
熊 俺達に知らされている情報はほんのわずかだ
八 日本はどうだろう
熊 日本人のぜいたくな暮らしのために、途上国と未来の人々の生活が脅かされるって考えると後ろめたいよな
八 おいらがポチってやって、翌日配達してもらうためには、余分な作り置きがいるし、トラックは何度も往復するよな
熊 食糧を日本は63%輸入に頼っているのも問題だ
八 遠い国から運べば、化石燃料使うよね。生きるのに大事な食べ物を自給自足できないなんて、生き物としてどうなの、動物園のさると同じじゃん
熊 それは猿に失礼だ。猿は自分で折に入ったわけじゃない。それはそうとカナダは自給率264%だって
八 日本はマスクを中国に頼っていたからコロナで大変だったね。食糧危機は大丈夫?
熊 30年後には世界人口は百億人を超え、食糧は今の1、5倍必要になる
八 医療や食糧で外国を助けられるような国になりたいよな
熊 温暖化がこのまま進むと、30年後太陽を反射していた北極の氷が溶け、温暖化は加速してシベリアの凍土が解け、閉じこめられていたメタンガスが噴出して、二酸化炭素排出をゼロにしても灼熱化は加速するという試算もある。でも国を変えるって大変だよ
熊 バルセロナやデトロイトの話をしただろ。コモンは国じゃなくても可能なんだ。日本の生協もその一種だ。地域の住民がまず自分たちで出資して始めるんだ。
八 じゃあ、手始めに熊さんの給金とおいらの給金とを共同出資、共同管理ってのはどう
熊 その前に、先月前貸ししたの返してくれる?
2021年8月