maturimokei’s blog

俺たち妄想族

モスラの復活1

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 モスラが家に来た。私はジャンクゴジラの修復をポリシーにしてきた。モスラは所詮脇役だ。しかもマルイモスラの最大の売りは糸吐きであるが、糸缶はもはや製造されず、販売当時の糸缶は中で固まってるものが多いと聞く。糸を吐かないモスラモスラじゃない。でも、脇役は脇役として置いてもいいか、ジャンクで探してオークションに参加すると、相手はすぐ降りた。家に届いたのを見て驚いた。口がない。箱入りで喜んだ私が迂闊だった。でも、つぶらや、いやつぶらな目がかわいい。
 箱入りといえば、私の家に箱入り娘が嫁いできた。未組み立てのゴジラである。私はジャンクゴジラの修復をポリシーにしてきた。未組み立ては所詮転売前提の投機目的だ。私の主義じゃない。少なさを価値にする資本主義的価値だ。そうではない。ゴジラの価値は歩き吠えるところにある、と信じてきた。でも、ジャンクでないゴジラがどんなものか気になってきた。部品が袋に入ったまま開封されていない未組み立てものをメルカリで見つけた。買ってしまった。折り目の美しい箱を開けて驚いた。初めて買ったゴジラの悪臭の元凶であった、体内にちぎって詰め込まれたスポンジが、2枚ともシワひとつなく並べてある。スポンジを除けると中から、21年の歳月を飛び超えた美しきタイムトラベラーが姿を現した。小さな頭、華奢な腕、豊かな腰回り、水滴をはじく艶やかな肌を持った箱入り娘がそこに横たわっていた。私が今まで出会ってきた埃まみれの蜘蛛の巣のへばりついたゴジラとは全く違う。しかも、いい香りがする。元の持ち主は女性に違いない。父親の遺品整理でこれを見つけたのだろう。決して裕福でない彼女はこれを手放した。別れの想いを込めて、彼女は使っている香水を一雫箱に落としたのだ。甘い匂いを閉じ込めておくために、私はその日以来一度も箱を開けていない。
 ブレブレやんか、と後ろ指をさされそうだが、私のゴジラ愛は少しも変わっていないことは誓って言える。

 話を戻す。モスラの口ならもともとプラスチックだから後で作ればいいやということで、念のため電池を入れてみる。006P電池のくたびれたバッテリースナップ線が切れて、ビニールテープがズレて銅線が見えている。新しいものに交換する。電池を入れメインスイッチを押す。全く音がしない。正常なら、スイッチを入れた瞬間だけ電流が流れ、ギアが噛み合う音がする。現存するゴジラの多くは油の固まりと錆のためこの音もしないが、スピーカーがブツッという音だけはするものはある。回路が生きているのだ。私の出番である。スピーカのクリック音もせず、回路が死んでいれば私にはお手上げである。
 逆に、腹が座った。心置きなくバラせる。リンクで伸び縮みはするが、基本は車輪を回して動くだけのシンプルな構造だ。ギアの数もゴジラに比べようもないほど少ない。赤子の手を捻るようなんものだ。幼児虐待は良くないので、これも早晩死語になるかな、と思いながらギアの掃除をしていたら、コツンと音がして、何か転がった。何か落ちたなと探すと、心棒だった。どこのが落ちたのかなと確認しようとして、探すときに机の上に置いた洗いかけのギアがどこに入っていたのか忘れてしまっていることに気づく。笑顔が消える。赤子の手を捻るどころか、いくら頭を捻ってもギアが収まらない。8枚歯10枚歯問題の再燃である。悪戦苦闘の末無事に収まった。昔はジグソーパズルをする人の気が知れなかったが、少しは気持ちがわかるようになってきた。
 モスラはプラスチックギアを使っているので、割れて空転するという記事をネットで見たことがあった。糸吐き用のモーターのピニオンギアである。前述したように糸スプレーが入手できない今となっては、修理する意味がないが、どうせ修理するならと、ミニ四駆用真鍮ギアを買った。このモーターは缶を押し出すためにかなりのトルクがかかる。にも関わらずプラスチックギアにした理由がわからない。実際、走行用のプラスチックギアは左右とも割れていないのだ。割れの原因は年月だけではない。

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左 元ギア、割れた筋が見える  右 新真鍮ギア ややこぶり

 見るからにひとまわり小さい。大きすぎると入らないが、小さくて空転すれば意味がない。とりあえず試す。釘抜きを土台にして金槌で叩き込む。土台は必ず金属でないと、シャフトが電極からズレてモーターを壊す。モーターにギアを叩き込むなんて50年振りではなかろうか。少し緊張するが、どってことない。ケースを組み上げる。実験用電池で直結通電する。ギャリッといってスプレー押しが作動した。やはり新しいピニオンギアが小さくて、相手の平ギアとの隙間が大きいことを意味する。噛み合ってはいるがギリギリの状態なのだろう。しかし、技術の習得には成功した。ひとまわり大きなギアさえ手に入れば完璧に修理できるということだ。

 ちなみに、押し出しヘラは行き止まりなので、モーターに負荷をかけないように、スイッチを自動で切らなければならない。ゴジラは左右旋回用のモーターを切るのに機械的な回転スイッチを使っていたが、モスラには見当たらない。どういう仕組みなのだろう。

 青い線が断線していた。モスラの配線はゴジラと違い、コネクターがない、色分け配線でない。部品をケチったのか、コードの色で操作部位を知ることができないのだ。ただ、赤プラスは守られているので、青はマイナス線だ。電池ボックスのマイナス線が外れているのを見つけた。ハンダ付けする。付かない。おかしい、ハンダメッキできない。線を切って新しい銅線部を出してもつかないし、色が変だ。黄金色をしていない。黒い。ビニール線の中まで黒いのはおかしい。そうか、以前の持ち主がショートさせて線が焼けたんだ。そこで新しい線を使う。不要になったスピーカーコードをとっておいていたので、割いてマイナス線1本だけを使う。電池ボックスから伸びたもう片方は基盤に直接ハンダ付けだから少し緊張するが、ゴジラの修復を始めてからハンダはかなり腕を上げた。
 なんと、前進、右折、左折、首あげ、鳴き、糸缶押し出し、全ての動作がラジコン操作できたのだ。モスラ〜ヤッ、モスラ〜、ドンガンサク〜ヤッ、インドンム〜。回路は生きていた。これで糸缶があれば、、、、
 大丈夫、私には次の一手がある。