maturimokei’s blog

俺たち妄想族

ミサイルよりヘリコプター

ミサイルは生き残った人を助けてくれたりしない。

道が寸断されて行けない、という言い訳は現地の人を勇気づけたりしない。

四面を海に囲まれ、日本は全国が能登だ。

ヘリコプターを増やそう。道が寸断されても、港が使えなくなっても、ヘリコプターなら物資や医薬品を届けられる。それが国防だ。安全保障だ。アメリカから高い戦闘機やミサイルを買う金で、国産のヘリコプターを増やそう。

明日、地震が起きないとは限らない。

㊙️2025年度「公民」共通テスト問題

次の項目の意味を選択肢A~Jよりテキトーに選べ。


1聞く力

2あらゆる選択肢を排除せず

3支持率

4支援

法治国家

6ジェノサイド

7差別

8コントローラー

9人間

10平和

 

A聴力。音がしたかどうかを判断する能力。話の内容を理解し判断し行動を修正する能力とは別物。

B最悪のものも選ぶということ。

Cプロパガンダの道具の一つであったり、差をさらに広げるためのものであったり、解散時期判断のバロメーターであったり、時や場所によりさまざまな役割をする数値。

D相手の望むタイミングをわざと外して遅れて与えることで、紛争を長引かせ漁夫の利を得ること。

E権力者が望む法律を作り、国民を支配する国家。

F歴史上の出来事なら現在でも徹底的に非難されるが、現在行っても容認される行為。

G為政者が統治の失敗から人民の目を外らせるために煽った外部や一部への恐怖心が、年月の経過に従い固定化されてしまったもの。

H遠隔操作する道具。操作方法はゲーム用と戦争用に大差はない。

I表現し行動することで世の中を変える動物。

J衣食住に困らず何を言われても笑っていられる状態。

賃上げ

賃上げ

 


八 熊さんよう。ちょっとわかんないことがあるんだ

熊 なんだい?

八 先生がブラック労働ってテレビで言ってたけど、どういうこと?夏休み冬休みあって羨ましいんだけど。

熊 長屋の寅先生、帰ってくるのいつも夜中9時ごろだぜ

八 じゃあ、たっぷりもらってるね

熊 ところが先生の残業代は本俸の4%に決まっているんだ

八 8時間労働だと、4%の残業時間は、ええっと、Siri!

Siri 19、2分デス

八 たった、20分?じゃあ寅センセ、5時に帰ったっていいんだ

熊 でも現状は、スマホと同じ定額制使われ放題。寅先生真面目だからなあ。明日の授業の準備は家でもできるけど、小テストの採点や提出物の点検、部活動は学校でないとできないんだってさ。そうそう、寅先生、今は上がったらしいけど、日曜日に4時間以上部活指導した時だけ500円って昔ぼやいてたなあ。

八 1時間が?

熊 4時間でだよ。1時間125円。学生アルバイトが時給180円の時代のことだぞ。しかも4時間以下は切り捨てだったって。

八 ひでえな。

熊 労働基準法には、超過勤務は手当2割5分増と決まっている。休日なら3割5分増し。

八 法律違反じゃ無いのか?

熊 ところが先生の給料は「給特法」っていう法律に一律4%って書いてあるから違反じゃない。

八 悪法もまた法なり!

熊 知っているからといって胸を張るな!ソクラテスは法律は守らなければならないから、悪法を作ると取り返しがつかないぞって言ったんだぞ

八 プーチンなんか、とんでもない法律をこの二年間作り続けているね

熊 領土割譲は法律違反にしたから、ウクライナ北方領土も返す気ないね。法律は誰が得をするために作られたのか考える必要がある。「特給法」は元々は、残業しないことを原則としよう、しても20分だよって善意から始まったとは思うんだけど

八 現実は仕事の量が多すぎるんだな。ストしたら?

熊 日本では先生や公務員にはストは認められていないんだ。その分、人事院勧告ってのがあって、いくらいくら上げなさいていう機関がある。強制力はないけどね

八 国会議員も同じ?

熊 ノン!国会議員は自分たちの給料は自分たちで多数決で決めている

八 国会議員は公務員じゃなかったんだあ。知らなかった。外国は?

熊 G7ではカナダを除いて、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、アメリカは公務員のスト権を認めている。昔は日本でも先生はストライキをしていた

八 どうなったの?

熊 教育委員会はストをした教職員組合の指導者たちを転勤させた。学年主任を転勤させることもあった

八 主任が途中でいなくなると困るよな

熊 組合は転勤取り消しを求めてストをした

八 で?

熊 教育委員会はさらにストの参加者たちを転勤させた。

八 言うこと聞かない奴は飛ばすって一時話題になった高価買取の「大型人力車」と同じじゃないか

熊 ストをきっかけに、組合は弱体化して組合のない学校も出てきた。団結権、団体交渉権、団体行動権日本国憲法で保障された労働者の権利なんだけどね

八 昔は春闘だ、メーデーだって国鉄もストしてたよな

熊 外国では消防署や警察もストするって

八 それはそれで大変だよな。でも先生のストなら生徒は喜ぶんじゃない?

熊 組合の経験がない先生が、どうやって子供たちに労働者の権利を教えるんだろう?ストライキなんて見たことがない人間ばかりが大人になって、経営側のお情けをありがたくいただくしかないのが今の姿だ。

八 でも、俺たちがいての職場だよな。働くもんがいないと何にもできないよな。おいらは働いてやってるんだからな。

熊 そういう言い方もある。アベノミクスで二回も消費税を上げてその分企業の法人税を下げたのだから、お前や俺の払った消費税は企業に流れたようなものだ。2014年から給料は上がって当たり前なんだ。最低賃金が1000円になっても世界の水準に比べて低すぎる

八 日本のものづくりは丁寧だし、おもてなしは行き届いているし

熊 最低賃金を上げても、扶養の壁103万円を変えない限り、さらに人手不足になる。カカアの手取りが3万円超えただけでオラあ保険やなんやかや、うん十万円も追徴された。

八 気の毒に。

熊 不評な扶養控除の法律を何十年もほったらかしておいて国会議員として仕事をしていると言えるのかい。

八 コンピュータを使えば、壁なんか作らず、滑らかに徴収できるのに

熊 最低賃金っていうとパートを思い浮かべるよな。アベノミクスはパートを推し進めたが、教育委員会もパートを推し進めたんだ

八 どういうこと?

熊 正教員の採用を抑え、講師というパート教員を大量に採用したんだ。

八 なんで?

熊 少子化に備え、いつでも首を切れるように。組合は教員の採用枠を維持すると少子化で自動的に30人学級ができると考えたんだが、教育委員会は教員を減らし続けたんだ

八 公務員は辞めさせられないからかなあ

熊 それも問題だな

八 居てほしい講師の先生が人数調整で四月には居なくなり、とんでもない先生が居続ける

熊 「大型人力車」は即その場でクビにして、どんどん新人を入れた

八 コマーシャルでは社員8000人とか言っていたね。クビを切った数も入れてね。でもどんどん首を切るんだから、現場は安定しない

熊 学校も同じ。職員が流動化し、正教員が少なくなるということは、正教員の負担が大きくなることにもなる

八 残業が増えるし、生徒と関わる時間が短くなる先生が増えるね

熊 寅先生は普通科だろ、農業や工業の先生に比べて一割も給料が少ないんだぜ

八 なんで、寅センセなんか悪いことした?

熊 敗戦後の日本を復興させるために、工業と農業の先生を集めたくて、一割増に決めたんだ

八 戦後って、もう何年経ってるんだよ。70年以上前のことだぜ

熊 ほったらかしだよ。むしろ内部で羨ましがらせて、先生の間を分断させる方がいいと思う人がいるんだ。江戸幕府士農工商と同じだ。学校をブラックにしたのは、教育委員会文科省ではないのかと言いたいね

八 先生は夏休みがあっていいなと思ってたんだけど

熊 寅先生は、夏休みがないと死んでしまうと言っていた

八 法律に違反しない以上クビにならない公務員制度を作り、優遇されているように見せて、世間の妬みを向け、社会を分断して批判の目を公務員に向けさせて得をしているのは誰なのか、法律というものは常に改良していくべきものなのに、それをせずにお上が出した法案のみを党という立場で支持するだけで働いた気になっているのは誰なのか、本当にダメな公務員をクビにできないことで得をしているのは誰なのかを考えてみる必要がある

熊 国会議員って公務員だよな

八 俺が珍しくかっこよく締めたんだから、全部言うなっ!

 


(2023、7、6)投稿24.1.10

国会議員音頭

ヤーレヤレヤレ、やっとれん

ヤーレヤレヤレ、やっとれん

 

はあ〜?俺も欲しいよ月100万

文書通信交通費

領収書無しの月100万

庶民の話を聞く金で

エッフェル塔でハイチーズ

やっぱり議員はやめられない

やっぱり議員はやめられない

 


はあ〜?差別発言垂れ流し

韓国、アイヌ同性婚

思想の自由と胸を張り

ヘイトスピーチやり放題

それでもクビにはなりません

だって公認議員だもん

だって公認議員だもん 

 


はあ〜?裏金作りのパーティー

告発なさった学者さん

学術会議に入ってね

パー券不正の責任は

安倍さん一人に負わせましょ

だって国葬なんだもの

だって国葬なんだもの

 


はあ〜?支持率最低更新中

悪いことなどしてないと

不思議な顔でいう総理

拙速国葬ミス人事

教会パー券調査無し

自覚がないのが困ります

しないで済ますの困ります

 


はあ〜?パーティー自粛と言うけれど

裏金作りは誰の指示

ヤミ献金を無くすため

税金300億政党に

ぬすっと追い銭このことか

やっぱりパーティーやめられない

やっぱり議員はやめられない

 


はあ〜?派閥の長を辞めるって

パー券説明するのイヤ

次の長に泥かぶせ

蚊帳の外に出たいのね

そこまで厚顔無恥だとは

やっぱり支持率ダダ下がり

もっともっと支持率ダダ下がり

 


はあ〜?日本は間接民主制

議員の定数誰決めた

議員の給料誰決めた

選挙法は誰決めた

身分保証は誰決めた

みんなみんな議員が決めました

みんなみんな議員で決めました

 


はあ〜日本は間接民主制

議員の定数誰決める

議員の給料誰決める

選挙法は誰決める

身分保証は誰決める

みんなみんな国民が決めましょう

みんなみんな国民で決めましょう


ヤ〜レヤレヤレ、ヤットレン

ヤ〜レヤレヤレ、ヤットレン

「怪物」著 佐野 晃 脚本 坂元裕二 宝島社

カンヌ国際映画祭クィアパルム賞、脚本賞受賞の是枝裕和監督の映画「怪物」の小説化。素晴らしい。怖さと美しさが織りなされた作品だ。描写においてはやや物足りなさを最初感じていたが、冗漫な比喩を聞かされるより、淡々とした筋の叙述の方が、読む方のイメージ化の邪魔にならずこれで良い。幾多の伏線が徐々に明らかにされていく。芥川の「藪の中」は独白調だが、「怪物」は3部において同じ時系列で母親、教師、子供の行動と心理が語られる。こいつこそが怪物じゃないかと思われる人物が次々と現れてくるが、次の部を読むとその行動の理由がわかり、描かれた状況だけから憶測とも思わず、自分の経験から断定してしまっている、自分の中の怪物性に読者は途中から気づき始める。"怪物"の一人である校長の「誰でも手に入る物を幸せっていうの」という一見浅薄な言葉に作者の思いはあるのでないか。偏見と戦い勝利する世界ではなく、偏見がなくなった世界こそが幸せな世界なのだと。映画は見ていないが、ラストシーンの映像がはっきりと思い浮かぶ。

解釈変更 八と熊

八 熊さんよう。ちょっとわかんないことがあるんだ

熊 なんだい?

八 最近解釈の変更ってよく聞くんだけど、どういうこと?

熊 放送法が問題になってるな。放送法で定めた「政治的中立」が守られているかは、その局が放送する番組全体で判断するという長年の原則があった。それを2015年に、当時の高市総務相が、ひとつの番組だけで判断する場合があると国会で言ったんだ。

八 なんでそうなったの?

熊 安倍元首相の補佐官礒崎さんから強い求めがあったって言うんだ。番組名名指しで、安倍さんを批判する発言しか放送しないのはおかしいって。

八 安倍さんの「こんな人たちに、私たちは負けるわけにはいかないんです」発言には、安倍さんを批判すれば価値の低い人にされてしまうから、安倍やめろなんて言っちゃダメって言うの?

熊 なかなか擁護しにくい発言が多かったな。

八 解釈って誰が変えるの?

熊 礒崎さんは、「俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。首が飛ぶぞ。」「この件は俺と総理が二人で決める話」と言ったらしい。

八 パワハラだね。今なら自分の首が飛ぶね。礒崎さんのゴマスリか安倍さんの提案ってこと?それだけで決まっちゃうの?

熊 当時の首相秘書官山田真貴子さんが、言論弾圧になると反論したらしい

八 山田さんって菅総理の息子が務める東北新社から接待受けて伊勢海老食べたって言って辞職した人だね。正直な人なんだ

熊 だからトカゲの尻尾にされた

八 でも首相秘書官で反対する人がいたって嬉しいね

熊 安倍さんは派閥がでかい。閣議決定すれば誰も反対しない。集団的自衛権の解釈変更も閣議決定した。

八 若者シールズがラップデモした時だね

熊 岸田内閣も原発の運用について解釈変更した

八 法律なんだから、変更は国会で決めなきゃ民主主義じゃないよね

熊 法律を変えるとなると国会で審議して採決を取らなければならない。イギリスやアメリカなら、党の中にも反対する人が必ずいるけど、日本にはいないから通るのは通るが時間がかかる。手っ取り早いのが解釈変更なんだ。法律を変えたわけじゃない。

八 ズルくないかい?他の国はどうなんだい?

熊 ロシアは外国の代理人の範囲を広げる法案や、領土割譲禁止法案を議会が提出してプーチンが署名した。これによって政府に不利なことを書く外国人の記者も捕まえられるし、北方領土ウクライナ5州も返還すると法律に違反することになる。キッチリ手続きは踏んでいるんだ。タリバンは勝手にイスラム教を偏った解釈して女子に学習させない。

八 どっちもどっちだなあ。ところで放送法ってどうしてできたの?

熊 それはね、日本が戦争に突き進んだのは、当時の放送が政府の言う通りに流し続けていたからなんだ

八 今のロシアと同じだね

熊 戦争に加担したという苦い反省のもとに、放送界が自らを規制するために作ったんだ

八 それを政府が自分に都合が悪いから変えるって本末転倒じゃない?

熊 政府の御用聞きにならないための放送法だもんな。政府がとやかくいうのはおかしい。

八 菅さんは学術会議のメンバーに文句を言ったね

熊 学術会議も政府の御用聞きにならないためのもの。両方とも戦争を繰り返させないためのものなんだ

八 ところで、どうして「首が飛ぶぞ」みたいな細かいことまでわかったのかなあ?あ、そうか、暴露ユーチューバーガーシー議員がすっぱ抜いたんだっ

熊 ガーシーではなく、立憲の小西さん。ガーシーは名誉棄損罪、常習的脅迫罪で指名手配中で外国に逃げてる。でももう議員手当2000万円貰ってる

八 ええっ?取り戻せないの

熊 無理だな。元々ガーシーは国会に出ないと公約していたわけだから、彼に投票した人は、税金を逃亡費か遊興費として与えるために投票したことになる

八 何とか解釈変更で取り戻してよ。岸田さん

熊 お前なんもわかってないな

 

 

(2023年3月20日)

 

 

「羅生門論2」十五 尚学図書 昭和五一年(1976年)〜

尚学図書 昭和五一年(1976年)〜

 

 尚学図書は昭和五一年から採録を始め、平成五年まで、その後四年途絶えて、平成十年から五年間採録する。

 主題については、

「追いつめられた極限状況のもとで、人間が露呈するエゴイズムの心理を描こうとした作品である。魚と称して蛇を切り売りする女、その女の死骸から髪の毛を抜く老婆。その老婆の着衣をはぎとる下人。彼らは生きるためにはしかたのない悪として、お互いの悪を許し合った。人間の名において人間のモラルを否定した、救済のない世界。このような状況においての生への執着は、既に罪ではなく、人間存在のまぬがれがたい事実であるかもしれない。そういう極限の人間心理をこの作品は鋭く描き出している。最後の「外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。下人の行方は、だれも知らない。」という有名な結びが、このような無明の闇を象徴的に表現している。」

としている。これは三好行雄説だと思われる。「悪を許し合った」や「無明」は彼の表現だ。エゴイズム論である。ところで「許し合った」はどこから来るのだろう。老婆の言う通り蛇売り女が老婆を許していると取るのが正しい解釈なのか、老婆は下人に着物を剥がれるときに抵抗しなかったと読むのが正しい読みなのか、私にはとてもそう思えない。「許し合った」は互いが許したという意味であり、相手の同意もなく、一方的に自分が許されるという連鎖を、「許し合う」とは私は言わない。一方、指導書は鑑賞にかなりの字数を費やし、項目立てて多くの研究者の意見を載せていて、とても参考になる。

 「芸術上の開眼期」の項目では、「羅生門」成立までの習作にふれ、「習作をふまえて、作家「芥川龍之介」が確立された作品といってよい。」とし、「別稿・あの頃の自分の事」を紹介し、

「「愉快な小説」であるかどうかには議論のあるところだが、現状とかけ離れて、昔話に材を取った物語という点を、そのように表現したものであろう。それよりも駒尺喜美氏もいうとおり「羅生門」を書いたころの芥川が一つの高揚期、いわば芸術上の開眼期にあったことのほうを、われわれは重視すべきであろう。「……今までのぼくの傾向とは反対なものが興味をひき出した。ぼくはこのごろラッフでも力のあるものがおもしろくなった。……とにかくぼくは少し風むきが変った。変りたてだから、まだ余裕がない。ぼくはぼくの見解以外に立つ芸術は、ことごとく邪道のような気がする。そんなものをこしらえるやつは、大ばかのような気がする。だからたいがいの芸術家は小手さきの器用なバフーンのような気がする。」(大正三・一一・三〇、恒藤恭宛書翰)ここにははっきり、これから目ざそうとする芸術への自信が読みとれる。」

と指摘している。これは今までの指導書になかった記述である。

 「歴史小説」の項目では、「今昔物語」「方丈記」の指摘をしながら

「歴史的事象に近代的な解釈を加えたものである。これは「羅生門」に限らず、初期に多い芥川の歴史ものに共通の特色である。」

とする。「澄江堂雑記」から、有名な「今ぼくがあるテーマを」から「不自然の障碍を避けるために舞台を昔に求めたのである。」までの、芥川が昔に舞台を求める理由を抜粋した後、

「もっとも若い芥川がミステリアスな世界を好んだことは事実で、それは「MYSTERIOUSな話があったら教えてくれたまえ。」(明治四五・七・一五、恒藤恭宛)という書翰のことばにも現れている。「今昔物語」を熱心に読んだのには、怪異談に対する興味がはたらいていたこともあったにちがいない。しかし、「羅生門」のモチーフを単に怪奇好みとしてだけ理解するのはもちろん誤りで、前記「今までのぼくの傾向とは反対なものが興味をひき出した。ぼくはこのごろラッフでも力のあるものがおもしろくなった。」という大正三年の時点における芥川のことばを重視すべきことは、いうまでもない。」

としている。

 「新理知派・新技巧派」の項目では、

「もっとも芥川自身は「しばしば自分の頂戴する新理知派といい、新技巧派という名称のごときは、いずれも自分にとってはむしろ迷惑な貼り札たるにすぎない。それらの名称によって概括されるほど、自分の作品の特色が鮮明で単純だとは、とうてい自信する勇気がないからである。」(短編集『羅生門』あとがき)といってこの呼称を忌避しているが。」

と付け加えている。これは芥川の「勇気」の使い方に、皮肉の意味が込められているときがあることを、拙著「羅生門論」で指摘した時に使った文例でもある。

 「知性の文学」の項目では、

「「羅生門」に示された芥川の短編小説の特徴は、機知に富む発想、様式上の多彩な試み、趣向をこらした構成、均整のとれた文体などという評語で要約される性質のものである。もともと意識的なはからいをまったく欠いた文学作品などというものは存在するはずがなく、特に人生の断面を凝縮した形で描く短編小説の湯合、作者の態度に高度の知的操作を必要とすることは当然のはずである。その意味で、芥川の作品に一貫してつきまとう評価ー芥川の文学を一種の「知恵のあそび」とする評価は、酷なように思う。私小説主流の当時の文壇では、芥川の「虚構」はやはり異端であった。」

と、自然主義文学との対比において述べている。大岡昇平

「芥川はこのように、その作品の価値だけではなく、その生涯の劇的な意味によって、注目され読まれているのである。・・・・芥川の作品は『知性』と『死』という二つの極から光をあてることによって、鮮やかな像を結ぶように思われる。」(中央公論社『目本の文学』29解説)

という言葉を紹介している。

 「表現の特徴」の項目では、浮橋康彦氏のまとめに従って『国語教材研究講座』(有精堂)から

⑴同一・類似・発展のくり返し。

⑵装飾的な寸景描写。

⑶「もちろん」型。

⑷ある種の謎解き型。

を特徴として、各々例を挙げて説明している。

 「主題をめぐって」の項目では、

「「羅生門」の主題については、だいたい諸家の意見は一致している。芥川がこの作品で描こうとしたものが、追いつめられた、ぎりぎりの状況のなかで人間が露呈するエゴイズムの心理であることは、まちがいあるまい。」

とし、以下に諸家の説が続く。少し長いがそのまま引用する。

「「下人の心理の推移を主題とし、あわせて生きんがために各人各様に持たざるを得ぬエゴイズムをあばいているものである。」(吉田精一氏)

「平安朝末期の庶民生活を借りて、人間のエゴイズムを剔出するのをテーマとしている。これはほぼ漱石の態度であるから、かれの文学がまず漱石によって認められたのは、偶然ではない。このテーマは、飢饉に際して、魚と称して蛇を売る女、その女の死体から髪の毛を抜く老婆、その老婆から衣服を剥ぎ取る失業下人という三段階構成によってまとめられている。・・・二十四歳の青年とは思えない安定性を持っているのである。」(大岡昇平氏) 

「同じ人間の心の中に、善と悪の両方面に動く心理を作者は描出している。人間とは善人とか悪人とか画然と別れるものではない、同一人の中に両方面への衝動を併せ持つものである、との人間観をかなり意識的に作者は示していると思う。下人は『合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった』にもかかわらず、正義観に燃え、また老婆の弁解をきいているうちに、悪の勇気が生まれるのである。『おれもそうしなければ、飢え死にをする体なのだ』というのは、下人の捨てゼリフであって、生きるためのエゴイズムを論理的に肯定しているわけではない。作者は、人間とはある条件、あるきっかけで正義の人となるが、またある条件、あるきっかけで悪へも簡単に動くものであるとの人間認識を示しているように思う。少くとも作者の視点は、人間のエゴイズムの側にのみでなく、善悪の両面を見つめていると思う。」(駒尺喜美氏)

「小説の主題は暗い。蛇を切り売りした女と、その女の髪を抜く老婆と、その老婆の着衣をはぐ下人と、かれらは生きるためにはしかたのない悪のなかで、お互いの悪を許し合った。それは人間の名において人間のモラルを否定し、あるいは否定することを許容した世界である。エゴイズムをこのような形でとらえるかぎり、それはいかなる救済も拒絶する。なぜなら、精神の裸形とでも呼ばねばならぬ生の我執はすでに罪ではなく、人間存在のまぬがれがたい事実に外ならぬからである。芥川がこの小説で書こうとしたのは、追いつめられた限界状況に露呈する人間悪であり、いわば存在そのものの負わねばならぬ苦痛であった。」(明治書院現代日本文学大事典」)

平岡敏夫氏のように、芥川の情緒の世界の質を重視する立場から、羅生門という舞台に包括される耽美的、情緒的な世界そのものがこの作品の主題であるとする説もある。」

と、五人の説を紹介している。四番目の「現代日本文学大辞典」の説はおそらく三好行雄氏のものと思われるが、氏名は書かれていない。駒尺氏の説は明らかにエゴイズム論ではないが、そのような説明はなく、平岡氏の説の取り扱い方と大きく違い、「だいたい諸家の意見は一致している。」に吸収された扱いになっている。

 「無明の世界」の項目で、

「「羅生門」の世界は、けっして明るいものではない。特に「外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。下人の行方は、だれも知らない。」という結末には、絶望的な人間認識の深淵をのぞき込ませるようなおもむきがある。「あそこで描かれているのは、悪が悪の名において許し合う世界、それ以外に人間のタブーを突き抜けて生きていく道がないという認識は、それは確かにエゴイズムかもしれないけれども、エゴイズムをそういうものとしてとらえてしまえば、救済はないでしょう。絶対悪ですから。そしてそのときに、それを守ってくれるものもないわけですよ。法もなければ神もないでしょう。ぼくはそれを″無明″と呼ぶのですけれど、あの闇は無明の闇だろうと思うのです。その無明の闇に下人を駆け抜けさせたところに、ぼくはむしろ、龍之介の人間認識における虚無的なものを見るわけです。」(三好行雄、『国文学』昭和五〇年二月号、シンポジウム「芥川龍之介の志向したもの」)

と、三好行雄氏の言葉を載せている。

 「四 鑑賞」の後は「五 作者」として、生い立ちから死まで、詳しく紹介されている。「私生児説もあるが、信憑性に乏しい。」と記されている。このことは今までの指導書で触れられなかったと思う。

 

 右のシンポジウムは、この指導書が検定を受けた年であり、できるだけ最新の説を取り入れようとする姿勢が見られる。また、1965年刊の「現代日本文学大事典」(明治書院)を参考にしていることが見受けられるが、執筆者一覧に、平岡敏夫三好行雄吉田精一の名は見えるが、駒尺喜美の名はない。したがって、主題に関しては三好行雄説を色濃く反映していると言える。