maturimokei’s blog

俺たち妄想族

「怪物」著 佐野 晃 脚本 坂元裕二 宝島社

カンヌ国際映画祭クィアパルム賞、脚本賞受賞の是枝裕和監督の映画「怪物」の小説化。素晴らしい。怖さと美しさが織りなされた作品だ。描写においてはやや物足りなさを最初感じていたが、冗漫な比喩を聞かされるより、淡々とした筋の叙述の方が、読む方のイメージ化の邪魔にならずこれで良い。幾多の伏線が徐々に明らかにされていく。芥川の「藪の中」は独白調だが、「怪物」は3部において同じ時系列で母親、教師、子供の行動と心理が語られる。こいつこそが怪物じゃないかと思われる人物が次々と現れてくるが、次の部を読むとその行動の理由がわかり、描かれた状況だけから憶測とも思わず、自分の経験から断定してしまっている、自分の中の怪物性に読者は途中から気づき始める。"怪物"の一人である校長の「誰でも手に入る物を幸せっていうの」という一見浅薄な言葉に作者の思いはあるのでないか。偏見と戦い勝利する世界ではなく、偏見がなくなった世界こそが幸せな世界なのだと。映画は見ていないが、ラストシーンの映像がはっきりと思い浮かぶ。