八 熊さんよう、このあいだの新人世資《よすけ》のなんとかって本どうなった?
熊 人新世の資本論だ
八 それそれ
熊 マルクスって兄さんの考えが、誤解されてるっていろいろ書いてあるんだが退屈でなあ。おらあ、ご隠居のおっしゃることならともかく、マルクスって野郎が何言おうと関係ないやい。さっさと斎藤さんも自分の言いたいことを書きゃあいいんだ
八 じれったいなあ
熊 ただ、一つ面白いことが一つ書いてあった
八 なに?
熊 少なさが価値を生むってことだ
八 どうして?
熊 少ないと欲しがっても手に入らないだろ。だから値を上げるんだ。すると儲かるだろ
八 あったまいい。でも高すぎると、買う方が音を上げちゃうよな
熊 そうなると、儲かるってことで他の者が作り出すんだ。すると、たくさん出回るから値が下がる
八 なるほど、うまくいくね
熊 ところが、大事な条件がある
八 なに?
熊 囲い込むってことだ
八 どういうこと?
熊 みんながてめえで作れたら誰も買わんだろ。だから、始まったのが土地を囲い込む。昔は土地は誰のものでもなかった。みんなが米を作るから、米は商品にならなかった。
八 今ではスーパーで売ってるね
熊 都会人は農地持ってないだろ
八 米買うしかないよね
熊 土地の次は石炭や石油だ。
八 化石燃料って言うぐらいだから、作ったのは地球でメジャーじゃないけど、囲い込まれたら、中に入れば不法侵入になっちゃうね
熊 その次は水だ。どこそこのおいしい水って売ってるだろ
八 誰が金出して水買うって思ったよね
熊 異国じゃ普通だって。飲める水が少ないから、水道も民営化してる国があるって。物だけじゃなく、手段も囲い込めるんだ
八 どういうこと?
熊 昔は職人気質のへんくつが、最初から最後まで作るから、出来が気に入らねえ、とか、今日は気が進まねえとかヘソ曲げると製造はストップだ。でも、今じゃ工場でみんなに分けて作らせるから
八 製品全体の仕組みはイマイチわからないが、簡単だし、ヘソ曲げる奴もいねえ。ヘソ曲げればお払い箱だ
熊 製造方法を経営者が囲い込んだ。
八 でもさすが空気は囲い込めないよな
熊 おれはそうは思わないぜ。コロナで酸素ボンベの奪い合いが起きた。二酸化炭素の排出量取引って、これは自分の国の空気だという、空気の囲い込みじゃないのか
八 なんでも囲っちゃうんだ
熊 もともとは誰のものでもなかったものを囲い込んで、一部の人間のものにしちまう、それが資本主義なんだ
八 オレも囲ってみたいなあ。お花ちゃんだと最高だな
熊 意味が違うんじゃないか?
2021年8月